ディスブランディングとは?自社の弱みを逆手にとる集客戦略を紹介

「ディスブランディング」という言葉をご存じでしょうか。
一般的には、ブランドイメージを下げたり損なったりと、ネガティブな場面で使われることが多い言葉です。

しかし近年では、従来のようにブランド一辺倒の広告から脱却しようというポジティブな意味合いでも注目されつつあります。

顧客のニーズが多様化し、情報量も爆発的に増えている昨今、ただ「良いところをアピールする」だけのブランディングでは注目を集めにくくなりました。

そこで、あえて自社の弱みやネガティブな要素を前面に打ち出して差別化を図る「逆ブランディング」を取り入れる企業が現れてきています。

本記事では、まず「ブランディング」とは何かを振り返り、そのうえでディスブランディングの定義や、同じく近年注目される「ディブランディング(De-branding)」との違いを整理します。

さらに、ディスブランディングの具体的な事例、その成功のポイント、導入にあたっての注意点なども詳しく解説します。

この記事でわかること
  • ディスブランディング戦略の仕方
  • ディスブランディングとディブライディングの違い
  • 効果的なディスブランディングの一例
  • ディスブランディング戦略で気を付けること

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目次

ブランディングとは

ブランディングをしている企業

ブランディングの定義

ブランディングとは、企業や商品、サービスが持つ特徴や価値を明確にし、それを顧客に伝えることで、共感や信頼、愛着を育む活動を指します。

たとえば企業ロゴやキャッチコピー、パッケージデザインといった視覚的・言語的な要素から、企業の理念やストーリー、サービス体験などの無形の価値に至るまで、あらゆる接点でブランドを感じさせる仕組みがブランディングには含まれます。

ブランディングの目的は単に「知名度を上げる」だけではありません。

顧客が特定のブランドに対してポジティブな印象や購買意欲を抱くように促すことで、長期的なファンを獲得し、競合他社との差別化を図ることが本質的な狙いです。

結果として価格競争に巻き込まれにくくなり、安定的なビジネス基盤を築きやすくなるのです。

ブランディングが重視される背景

現代はインターネットやSNSの普及により、企業の規模や広告予算に関わらず、顧客が手軽に商品やサービスの評判を調べられる時代です。

一方、良質な情報だけでなく、誇張された広告や過剰な宣伝も当たり前に存在します。

こうした状況下で、単に「品質が良い」と叫ぶだけでは顧客の心を動かすのは難しくなりました。

むしろ、「何を提供するか」よりも「どんな想いで提供しているか」「どういう世界観を持っているか」といったブランドの“軸”が問われ、共感されるケースが増えています。

そのため、ブランディングは企業戦略において、重要な位置を占めるようになっているのです。

ディスブランディングとは

ディスブランディングの定義

「ディスブランディング」は、ブランディングを示す“Branding”に対して“dis-”という否定の言葉がついているため、一般的に「ブランドイメージを壊す」「価値を損ねる」というネガティブな行為として捉えられがちですが、一方で「ブランドからの脱却」という意味合いもあります。

あえて自分たちのデメリット(弱み)を自虐的に伝えることで親しみやすさを打ち出し、逆説的にブランドを際立たせる手法として注目されています。

ディブランディングとの違い

よく混同される言葉に「ディブランディング(De-branding)」があります。

こちらは、ロゴやコピー、パッケージなどのブランド要素を極力削ぎ落とし、商品本来の魅力を強調する手法です。

ディスブランディング:ネガティブ要素(自虐、欠点など)をあえてアピールして、顧客の興味や好感を喚起する。

ディブランディング:あらゆる装飾や誇張表現を削ぎ落とし、“ブランドの純度”を高める、または商品・サービス自体を際立たせる。

どちらも従来の「良い部分をひたすらアピールする」ブランディングとは対極の発想ですが、ディスブランディングは「ネガティブな情報を使う」、ディブランディングは「情報そのものを削る」という点で方向性が異なります。

効果的なディスブランディングの一例

ディスブランディングが成功した店舗の様子

ここからは、具体的な自虐コピーの例を見ていきましょう。

ネガティブに見える表現が、実は裏を返すと顧客にとってポジティブな価値となり得ます。

  • ○○しか作れません
  • 人気が無くていつもガラガラです
  • 施設が古くてボロボロです
  • 大事な記念日には向いていません

○○しか作れません

自虐的印象逆説的効果
他の料理や製品を作れず、汎用性が低い、融通がきかない印象一点特化のプロフェッショナルとしての信頼感が高まる


ラーメン店で「ラーメンしか作れません。しかし、その分だけ味には自信があります」と掲げると、「専門店らしいこだわりがある」「妥協しない姿勢」を印象付けられます。

人気が無くていつもガラガラです

自虐的印象逆説的効果
「不人気」というマイナスイメージから、経営状態を心配される可能性がある「待たなくても良い」「混んでいなくて快適」といった穴場ならではの魅力が際立つ


2019年、三重県志摩市のテーマパーク「志摩スペイン村」が、空いているテーマパークとして「並ばないから乗り放題」「空いているからインスタ映え放題」という自虐的な広告を打ち出し、大きな話題となりました。

遊園地が「空いています。いつ来てもあなたのペースで遊べます」と発信すれば、小さな子供がいるファミリー層など、混雑を避けたい顧客には刺さるでしょう。

施設が古くてボロボロです

自虐的印象逆説的効果
老朽化した設備や建物を感じさせ、汚く暗い印象レトロな雰囲気やノスタルジーを体験でき、昔懐かしい良さを感じる


1853年に誕生した日本最古の遊園地である「浅草花やしき」は、古さを逆手にとり、昭和感や下町の雰囲気を売りにしています。「最新の設備ではないけれど、独特の味わいがある」点を強調すればファンが生まれやすい好例です。

大事な記念日には向いていません

自虐的印象逆説的効果
特別感に乏しく、安っぽい印象日常的に利用しやすいリーズナブルさや気軽さを感じる


ファミリーレストランが「誕生日や記念日は他のお店へ。でも普段の食事には当店をどうぞ」と謳えば、「日常使いには最適」という新たな付加価値を認識してもらえます。

ディスブランディングの成功のポイント

ディスブランディング戦略を行う際には、注意すべきポイントがあります。

ディスブランディング成功のポイント4つ
  • 自虐フレーズのさじ加減に注意
  • ブランドコンセプトとの一貫性
  • 誠実さ・正直さを感じさせる演出
  • ターゲット層を考慮する

自虐フレーズのさじ加減に注意

ディスブランディングはネガティブ要素のさらけ出しが鍵ですが、やりすぎるとただのマイナス情報になってしまいます。

バランスの取り方としては、「ネガティブを正直に認めつつも、それをカバーする強み・こだわりを同時に示す」ことが重要です。

たとえば「ガラガラですが、その分ゆっくり過ごせます」といった利点をわかりやすく書き添えることで、読む人が「なるほど、確かに快適かも」とポジティブに捉えられるようになります。

ブランドコンセプトとの一貫性

高級感が売りの老舗ホテルが、急にこれまで築いてきたイメージと大きく乖離する「安い・古い」を強調したディスブランディングを行えば、それまでのファンは困惑してしまいます。

そのため、やみくもにディスブランディングを採用するのは危険です。

もしブランドイメージを一新する“リブランディング”としてディスブランディングを採用するなら、「なぜ方向転換するのか」「どんな顧客を取り込みたいのか」を丁寧に説明する必要があります。

一方、もともと敷居が低い大衆店や、ローカルな施設などは比較的取り入れやすい手法と言えるでしょう。

誠実さ・正直さを感じさせる演出

ネガティブ要素を認める姿勢は、それだけで「誠実」「正直」と映ることがあります。

たとえばクレーム対応や失敗談をオープンにすることで、逆に信頼を得る企業も珍しくありません。

ただし、本当は全然ガラガラではないのに「ガラガラです」と偽るような捏造は、いざバレたときに大きな反発を買うリスクがあります。

ディスブランディングの根底には、実際に存在する弱みをいかに魅力に変換するかという発想があることを忘れてはいけません。

ターゲット層を考慮する

ディスブランディングは、一種のジョークや遊び心が通じる層に対しては高い効果を発揮します。

SNSで口コミや拡散が生まれやすい若年層を意識しているのであれば、かなり有効な手段でしょう。

一方、真面目さや格式を重んじる客層がメインの場合、「自虐ネタは軽率だ」とネガティブに受け取られる可能性もあります。あくまでもブランドの狙いたいターゲットに響く表現を考えることが大切です。

ディスブランディング戦略を実践するには

ディスブランディングを行っている事業者

ディスブランディング戦略は、全ての企業に当てはまるものではありません。自社にとって効果的な戦略かどうか、しっかりと検証することが重要です。

  • 目的の明確化
  • “弱み”と“強み”の棚卸し
  • 社内での入念なチェック
  • リスクヘッジの観点

目的の明確化

ディスブランディングを行う目的を明確にしましょう。

差別化や話題作りなのか、新しいターゲット層の開拓マイナスイメージから抜け出して新しいブランドストーリーを作りたいなど、目的によって、アプローチの仕方や打ち出し方は変わってきます。たとえば炎上覚悟で一時的な話題作りを狙うのか、長期的にファンコミュニティを育てるのかでも施策は大きく異なります。

“弱み”と“強み”の棚卸し

ディスブランディングの要となるのは、「自社の弱みが何なのか」を把握し、それがどのように強みや価値として転換できるかを見極めることです。

ディスブランディングで弱みを強みにする
  • 「アクセスが悪い」→「都会の喧騒から離れた隠れ家的スポット」
  • 「内装が古い」→「昭和レトロを味わえる雰囲気」
  • 「メニューが少ない」→「一点集中でこだわりを極めた専門店」

こうした裏返しの関係をリストアップし、実際に自虐コピーとして活かせるかを検討します。

社内での入念なチェック

ディスブランディングは社内でも賛否が分かれるケースが多い手法です。

なぜなら、社内の人間にとって自社の弱みはできるだけ隠しておきたい要素であり、ネガティブな情報をわざわざ発信することに抵抗感を覚える人も少なくないからです。

しかし、実際に施策を打ち出す前に、「どういう意図でディスブランディングを行うのか」を共有し、仮にネガティブ要素を表に出したとしても、ブランドの世界観やコンセプトを高めるためのものであることをしっかり合意形成しておく必要があります。

リスクヘッジの観点

万が一「自虐」が行きすぎて炎上してしまった場合に備えた危機管理体制や、柔軟な対応ができる窓口を作ることも検討しましょう。

顧客からの問い合わせやクレームが増える可能性に備え、FAQやマニュアルの整備も必要かもしれません。

こうした事前準備を怠ると、せっかくのディスブランディングが企業イメージを大きく傷つける結果になりかねません。計画段階でのシミュレーションや社内検証は入念に行いましょう。

ディスブランディングは新たな価値を創造するチャンス

ディスブランディングは、一見すると「ブランドを傷つける」という危険性をはらむ手法です。

ディスブランディングを実践する際には、ターゲットに受け入れられるさじ加減を見極め、ブランドのコンセプトと矛盾しないかをチェックすることが大切です。

そして、自虐フレーズの裏側にあるプラス要素を分かりやすく提示する工夫が求められます。

もし従来のブランディング手法に限界を感じているなら、ディスブランディングという視点で「弱みを逆手に取る」発想を導入してみるのも一つの選択肢でしょう。
時代や消費者心理とマッチすれば、思わぬ形でブランドが広がり、今まで到達できなかった層を呼び込むことができる可能性があります。

従来型の「良い部分だけをアピールするブランディング」とは異なる新しいアプローチだからこそ、一度試してみる価値は十分にあります。

何よりも、自社の弱みを知り、それを強みに転じられたときのインパクトは大きいものです。
ぜひ、自社のネガティブ要素が隠し持っているポテンシャルを再発見し、ブランドを新たなステージへ導くヒントにしてみてください。

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